現代ビジネス、2/13(月)

全国の大学では国による統制やトップによる独裁化が進み、弊害としてハラスメントの横行、非常勤教職員の大量解雇などの問題が起きている。背景にある大学政策と、大学崩壊の現状をレポートする。

国家による「支配」

大学は教育と研究の場であり、社会の規範となるべき存在だと多くの人は思っているだろう。ところが今、全国の大学関係者から「大学が壊れてしまった」と嘆く声が聞こえてくる。

「しかも、今後さらに大学界に激震が走ると考えられています。莫大な予算を投入する代わりに政財界が大学運営の舵取りをする『国際卓越研究大学』の制度が、令和6(’24)年度からの導入を目指して進められているからです。経済安全保障に大学の教育と研究が組み込まれるなど、大学を国策に沿って統制しようとする動きも加速しています」(国立大学関係者)

大学のあり方を大きく変えてしまったのは、小泉政権下で行われた’04年の国立大学法人化と私立学校法の改正だった。

国立大学は法人化により自主性や独立性が確保できるとされていたが、実際には運営費交付金が10年にわたり削減され、自主性も独立性も侵害されている。学長選考では教職員による選挙が廃止され、「学長選考会議」が決定する仕組みに変わり、事実上、教職員の意向は学長選に反映されなくなった。

私立学校法の改正では学長ではなく、経営責任者である理事長を学校法人のトップに位置づけたことで、思いのままに大学を運営する理事長も現れている。

この流れに拍車をかけたのが安倍政権下の’14年に行われた学校教育法改正だった。教育や研究にかかわる事項について審議するための機関だったはずの教授会は、学長による諮問機関へと格下げとなり発言権を失った。

同時に行われた国立大学法人法の改正では、学長の選考方法自体を学長選考会議が決められるようになっている。委員の多くは学長が任命するため、学長は独裁が可能だ。その結果、トップの任期を撤廃したり、執行部が独裁化や私物化に走ったりする大学が増えている。

国の方針に逆らったトップが解任されてしまった例もある。北海道大学の名和豊春前総長は防衛装備庁の助成を受けた軍事研究からの撤退を決めたほか、大学として加計学園の獣医学部新設に強く異を唱えていたところ、’20年6月に文部科学大臣から総長を解任された。

解任は職員へのハラスメントを理由にしているが、前総長は「まったく覚えがない」として国と北海道大学を提訴した。現在も係争中だが、裁判の過程で学内の機関に誰からもハラスメントの相談自体がなかったことが判明している。

’21年には、国は学長選考会議を「学長選考・監察会議」という名称に変更して、文部科学大臣が任命する監事の権限を強化した。別の大学関係者が語る。

「文科省の影響下にあるこの監事は、総長や学長の行状を会議の議題にできます。すると、北海道大学前総長のような、国の意に背くトップを解任しやすくなり、国による間接支配と統制が進んでしまうと危惧されているのです」

自治も自由も奪われる

ガバナンス改革と称してきたが、実際は完全な改悪である。また、国策の失敗により起きている問題はこれだけではない。

全国で大学執行部と教員や学生との間の訴訟が急増しているのだ。特に異常な訴訟が起きているのが京都大学だ。

京都大学は自由な学風を持った大学として知られている。しかし、その学風は「変質した」と教員や学生は口を揃える。

その一つが、大学のキャンパス内に建つ学生寮、吉田寮の問題だ。

吉田寮は現役の学生寮では日本最古で、全ての学生に門戸を開いている。経済的な事情を抱えた学生には欠かせない存在だ。老朽化しているとはいえ、耐震性があることも認められている。

ところが’19年から’20年にかけて、吉田寮の寮生45人が大学に訴えられた。一方的に寮からの立ち退きを求められたのだ。

吉田寮の自治会と大学側は現棟の補修について2000年頃から団体交渉を重ねてきた。しかし、大学は’17年に突然交渉を打ち切った。吉田寮の寮生が明かす。

「当時一般の学生や院生など約100人以上が入寮しているにもかかわらず、老朽化を理由に新規入寮の停止と全寮生の退舎を求められたのです」

自治会は話し合いの再開を求めたが大学は提訴に踏み切った。学生が裁判を闘うことは経済的にも精神的にも負担が大きすぎる。

裁判は他にもある。大学は’18年に大学構内外の立て看板を一斉撤去する。看板を撤去された職員組合が表現の自由に抵触するとして、大学を提訴している。琉球人遺骨を盗掘された遺族が大学に返還を求めた訴訟などもあり、京都大学が抱える裁判の数は際立っている。

文科省出身の学長が就任したことで大混乱となっている大学もある。

山形大学では’07年、文科省事務次官を務めていた結城章夫氏が、退任のわずか20日後に学長に選出された。文科省OBの国立大学学長は初めてだった。その後、結城氏および次の学長の小山清人氏が在籍する時期にかけて、山形大学は官民から多額の予算を獲得するが、そこで次々とトラブルが起きる。

「週刊現代」2023年2月11・18日合併号より

国公立大学が抱えている問題は、これだけにとどまらない。後編記事『いま「日本の国公立大学」で起こっている、パワハラ・大量解雇の「異常な実態」』では、パワハラや大量解雇などが横行し、機能不全に陥っている大学の現状をレポートしよう。