読売新聞オンライン(4/2)

私的交際を強要し、体を触る――。読売新聞の国公立大学への調査では、過去5年間で78人の教授らがセクハラやわいせつ行為で懲戒処分を受けていたことが明らかとなった。全学生の8割が通う私立大学でも同様の問題が起きているとみられ、専門家は「表に出ている被害は、氷山の一角だろう」と指摘している。(福元洋平、伊藤甲治郎)

【表】こんなにあった…国公立大教員がセクハラ行為で懲戒処分を受けた事例

「女として扱ってやる」

「論文や進路に関わる教授には逆らえない」

「我慢せず、信頼できる人に相談して」と訴える深沢レナさん=伊藤紘二撮影

早稲田大の院生時代に教授からセクハラ行為を受けた作家の深沢レナさん(32)は、悔しさをにじませた。

深沢さんは2015年9月に大学院合格後、翌年4月に入学する前から聴講に通っていた。指導教員だった文芸評論家の男性教授(71)に食事に度々誘われるようになり、深沢さんが仕方なく応じると、「卒業したら女として扱ってやる」「俺の女にしてやる」と告げられた。頭や肩、背中などに触れてくることもあった。

修士論文の準備には指導教員が関与するため、「要求を拒めば、論文に影響するかも」と不安に駆られた。精神的につらくなり、18年3月に退学した。その後、大学のハラスメント防止窓口に被害を申し立てた。大学は同年7月に教授によるセクハラ行為を認定したものの、懲戒処分ではなく、一般的な解任とした。

深沢さんは「被害者が声を上げなければ、教員の意識や大学の対応は変わらず、処分も甘いままになる」と語る。「大学のハラスメントを看過しない会」を20年に設立し、大学でのセクハラ問題などについて情報を発信している。

アカハラと関連多く

大学関係者らで構成する「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント・全国ネットワーク」によると、大学教員は学生の研究や学位の取得、卒業後のキャリアなどに関わるため、アカデミック・ハラスメント(立場を利用した嫌がらせ)と関連するケースが多い。

学生が相談をためらう様子もうかがえる。性について考える東北大の学生団体「AROW」は21年秋に大学でのハラスメントに関する調査を実施。調査に参加した学生81人のうち、男女5人が大学教員からセクハラを受けたと回答した。うち4人は大学などに相談しなかったとし、1人は無回答だった。

調査に関わった修士1年(22)は「相談すると、進路やキャリアなどで自身が不利益を被るとの不安があるのでは」と推測する。

懲戒処分、公表は大学の判断

大学が教職員を懲戒処分しても、公表するかどうかは大学の判断に任される。

読売新聞の国公立大学への調査では、セクハラによる懲戒処分があった場合「原則公表する」と答えた大学は全体の55・7%で、20・5%が「その都度検討する」と答えた。今回の調査でも、過去5年間の懲戒処分の有無を回答しなかった大学は2割近くあった。

同ネットワークによると、私大の多くは懲戒処分をしても、公表していないとみられる。

文部科学省は昨年11月、大学でのセクハラ事案の懲戒処分について、「被害者らのプライバシーに十分注意しつつ、公表すること」と大学側に通知で促した。教員採用時には処分歴を十分に確認して適切に判断することや、相談体制の整備、再発防止策などが講じられているかの点検も求めた。

大学経営に詳しい筑波大の吉武博通名誉教授は「大学側は世間の評判を気にして、被害者への配慮を理由に公表を避けるケースも少なくないと考えられる。だが、学生が安心できる学習環境を確保し、組織を健全化するためにも、大学は公表を原則とすることが望ましい」と話している。