ニューズウィーク日本版(4/19)

<4人に1人が300万円以上、7人に1人が500万円以上の借金を抱えている>

大学の上には大学院がある。「学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い、文化の進展に寄与することを目的とする」機関だ(学校教育法99条)。

【グラフ】大学院生の奨学金借入者の比率(金額別)

大学院は、かつては研究者養成の機能が強かったが、現在では高度職業人養成の役割も担うようになっている。理系の専攻では、大学卒業後に大学院に進学する者も多い。

大学院となると、入学時の年齢は22歳を超えているため、学費や生活費をもう親には頼れないと、奨学金を借りる学生が少なくない。貸与の額も高めに設定されていて、修士課程は月額5~8万円、博士課程は8~12万円だ(第1種〔無利子〕)。2020年度から給付型奨学金が導入されているが、大学院生は対象外なので、もっぱら貸与型を利用することになる。

全国大学院生協議会が2020年に行った調査によると、大学院生(修士課程、博士課程)の43.8%が貸与奨学金を使っている、ないしは使ったことがあると答えている。調査時点での借入額を問うと、59.8%が300万円以上、35.3%が500万円以上、3.1%が1000万円以上と回答している。これらの数字を使って、大学院生の奨学金に関する組成図を描くと<図1>のようになる。

<図1>

貸与奨学金を使っているのは43.8%で(横軸)、縦軸において借入額の分布を示している。これを見ると、多額の借金をしている学生が結構いることが分かる。院生全体(四角形全体)に占める割合にすると、4人に1人が300万円以上、7人に1人が500万円以上の借金をしている。博士課程の院生に限ったら、この比重はもっと大きくなる。

当然、借金をしていることへの不安はぬぐえない。就職できなかった場合、返していけるのか。不安で、研究が手につかない者もいるだろう。博士課程にあっては特にそうだ。

少子化の影響もあり、大学等の研究職(正規)のポストはどんどん減っている。非正規雇用(非常勤)の比重も高まっている。修士課程で月8万円、博士課程で月12万円借りた場合、5年間の総額は624万円。正規のポストへの就職が叶わなかった場合、非常勤講師等の薄給から返済していかなければならない。「高学歴ワーキングプア」へと一直線だ。

こういう博打はしたくないのか、大学院博士課程への入学者数は減少傾向にある。ピークの2003年では1万8232人だったが、2021年では1万4629人。<図2>は、1990年の数を100として、大学院への入学者数の推移をグラフにしたものだ。

<図2>

大学院重点化政策により1990年代は入学者数が増えたが、2000年代初頭以降、修士課程は横ばい、博士課程は減少の傾向をたどっている。大学の学部生が増えているのとは対照的だ。上記のような経済不安のためでもあるだろう。

ヒトしか資源のない日本において、高度専門人材を志す若者が減るのは由々しきことだ。科学技術立国の姿とは程遠い。大学院修士課程では授業料を徴収せず、卒業後に「出世払い方式」で払ってもらう、博士課程の授業料を大幅に減免する、大学院生を大学の臨時職員に雇用する等、様々な支援策が考えられてはいる。だが給付奨学金については対象外で、文科省は「稼得能力のある大人であるため」という趣旨の理由説明をしている。

教育を受けられるのは22歳までで、それ以降は自己責任という「年齢主義」の考えが透けて見える。事実、日本の年齢別の在学者数をグラフにすると、22歳から23歳にかけてガクンと落ちる「L字型」になる。これでは、生涯学習社会の実現などおぼつかない。法で定められた「教育の機会均等」に、年齢制限などない。

<資料:全院協「大学院生の研究・生活実態に関するアンケート 調査報告書」(2020年度)、
『文部科学統計要覧』(2022年度)>