朝日新聞デジタル(2023年5月9日)

A-stories 研究者を「使い捨て」にする国

理化学研究所の研究ユニットのリーダーとして着任したのは、30歳のときだった。

「30歳の若さでリーダーですからね。破格の条件でした」

40代の男性研究者はそう語る。

その前に所属していた国立大学では、工学部で微細加工技術を専門にしていた。理研では、それをバイオの分野に応用する研究を担うことになった。

細胞に発電させたり、ポンプのような働きをさせたり。国内外の専門誌に次々と論文を発表し、その数は100本を超えた。新聞やテレビにもたびたび取り上げられ、学会の賞もたくさん受賞した。

最初は自分だけだったユニットは、やがて15人を超えるチームに成長した。

「仕事とプライベートの区別はありませんでした。24時間、365日、いつも研究のことばかり考えていましたから」

男性は、1年契約の有期雇用だった。

理研では毎年、1年間の仕事内容と次の1年間の計画を報告する。一定の評価が得られれば、翌年も契約が更新される。男性は毎回、高い評価をもらっていた。

だが2016年に風向きが変わった。

理研は就業規則に新たなルールを設け、13年度を起点に、通算10年を超える研究者とは契約をしないとした。

それでも男性は、自分の行く末に不安は感じていなかった。

「うちの研究チームは成果を上げているので、このまま研究を続けていける」という自負があった。

ところが3年ほど前から、男性を不安にさせるうわさが耳に入るようになってきた。

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