早稲田大学公募問題・団交拒否事件(続報)

公募で落とされた理由を知りたいという応募者の訴えを、早稲田大学は門前払いにした。応募者は労働組合東京ユニオンとともに裁判を起こしたが、第一審の東京地裁では、企業や大学には「採用の自由」があるという早稲田大学側の主張が受け入れられ、大学の自治は「学問の自由」を守るためにあるという原告側の主張は空振りに終わった。応募者が選考のプロセスに関していだいた疑念を、個人でも、団交でも、法廷でも明らかにできない日本の大学と司法の闇は深いと言わねばならない。

問われているのは、専門分野(この場合は「中国政治」)における教育・研究上の業績を、選考委員会が「学問の自由」の視点を保持しながらいかに公正に評価しえるかということである。選考のプロセスにおいて、それを定めた内規への違反がなかったかどうかも問われている。私たちは大学において、「採用の自由」が「学問の自由」よりも上位にある概念とはみなさない。日本学術会議の会員の選考に政府がじかに関与しようとしている今、大学と司法は、こうした問題にどう答えるのだろうか。

学問の自由は大学人ばかりでなくすべての人の自由である。フランスでは戦後の憲法によって、高等教育まで含めたすべてのレベルでの教育の非宗教化と無償化が国家の義務とされた。日本では、政教分離と戦争の放棄が憲法に書き込まれたが、政府がながらく国連社会権規約のなかの高等教育漸進的無償化条項の批准を留保した後、2012年にようやく留保を撤回した。ところがいまフランスでは、EU圏外からの留学生の学費が有償化され、大学以外の高等教育機関の有償化も進んでいる。日本では国防費が倍増されるなか、10兆円規模の「大学ファンド」が創られようとしているが、それは世界ランキングで上位に入る大学をつくるための選択的投資であり、高等教育の無償化のためのものではない。

人新世にふさわしい都市の大学空間で仕事をしたいと願う人たちの採用をめぐって、現場でなにが起きているのかを私たちは知らねばならない。学徒動員のような帝国的社会の悲劇をくりかえさないためにも。

東京高裁の判決は2023年2月1日です。裁判の行方にご注目ください。

2023年1月20日
東京ユニオン執行委員長 渡辺秀雄
早稲田大学ユニオン支部長 岡山茂
問い合わせ先:東京ユニオン 03-6709-8954