北海道新聞(2023年1月23日)

 北大が、軍事と国民生活(民生)の両方で活用できる「デュアルユース」技術研究に関し、学内の研究者が「国内外の軍事・防衛を所管する公的機関」から資金提供を受ける際の事前審査制度を新設したことが分かった。学内からは、審査によりデュアルユース研究を認めることが「軍事研究につながりかねない」と危惧する声が上がっている。
 デュアルユース研究を巡り、北大は防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」により16年、17年度に計2330万円の助成を受けたが「政府による研究への介入」(日本学術会議)などと批判を受け、最終年度の18年度分を辞退していた。
 昨年9月の役員会で、審査制度導入などを盛り込んだ文書「国内外の軍事・防衛を所管する機関等との研究の取扱い」を決定。同年11月、学内の研究者らに電子メールで通知した。
 この文書では「軍事利用に限定した研究」は行わないと明記している。北大は、研究活動の国際化が進む中、資金の確保などについて透明性を確保するよう促した2021年4月の政府の対応方針などに基づき制度を新設したとする。
 審査を行う委員会は文系、理系、医学系の大学院教授各1人と理事、研究推進部長で構成すると規定。定員は設けず「学長が必要と認めた者」も委員に加えることができるとしている。
 北大は学内の手続きであることを理由に、審査の詳細などは明らかにしていないが、通知文書などによると、助成に応募する約2カ月前をめどに審査の申請を受け付け、1カ月程度で可否を判断する。《1》民生研究を加速するか《2》研究の自由、成果の公開が確保されているか《3》民生以外の用途で想定されるものはないか―の主に3点に基づき、研究計画書などを審査する。研究に着手後も随時、審査の機会を設け、助成を受けた研究の継続の可否を判断するという。
 北大教職員組合(山田幸司執行委員長)は昨年12月、「軍事研究を可能にすると危惧される」として宝金清博学長に質問書を提出した。
 宝金学長は審査制度について、北海道新聞の取材に「軍事(利用に限定した)研究をしないという考えのもと、大学として研究を適切に管理する」と説明。軍事研究に道を開く恐れがあるとの指摘には「個別に実施の可否を判断する」との回答にとどめた。

<安保変容 北の現場から>「軍民分離」揺れる北大、両用研究に審査制 成果転用危惧/技術推進期待も

北大が、軍民両面で利用可能な「デュアルユース」技術研究に関し、軍事・防衛を所管する公的機関から資金提供を受ける際の事前審査制度を新設したことを受け、学内には軍事研究を認めることにつながるとして反発や戸惑いが広がった。一方で、安全保障技術研究の推進などを期待する声も上がる。政府は、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有という安保政策の大転換に踏み出し、最先端の科学技術を防衛に転用する姿勢を強めている。
■姿勢強める政府
 「審査をクリアさえすれば軍事研究を認めるということではないか」。北大大学院工学研究院の山形定(さだむ)助教(61)は昨年11月、北大・研究公正推進室から届いたメールで、審査制度新設を知り、強い懸念を抱いた。当時、岸田文雄政権は、敵基地攻撃能力の保有を推し進めていた。戦後、学術界が貫いてきた「軍民分離」がないがしろにされる恐れがあると感じた。
 日本学術会議は2017年3月、北大が防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」で助成を受けていたことを批判する声明を発表。各大学などに対して「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、適切性を審査する制度」を設けるよう求めた。北大は、審査制度新設について、この声明も踏まえた措置とする。
 ただ、同様に声明に基づき18年に審査制度を設けた名古屋大は、北大とは異なり「軍事的利用を目的とする研究は行わない」「国内外の軍事・防衛を所管する公的機関から資金の提供を受けて行う研究は行わない」と規定している。
 一方、道産の小型ロケット「CAMUI(カムイ)」の開発に関わった永田晴紀・北大大学院工学研究院教授(57)は審査体制が設けられたことを歓迎する。軍事力の備えと行使は異なるとの主張から「わが国も(国際社会における)地域の安定に責任を有する国家なら、安全保障技術研究もしっかりやるべきだ」と話す。
 永田教授は17年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とロケットエンジン関連の共同研究を計画。防衛省の「安保技術研究推進制度」で20億円規模の助成を受けようと考えた。だが、大学当局から、学内に学術会議の声明が求める「審査体制がない」と指摘され、応募を諦めざるを得なかったと振り返る。
 科学技術の進歩により、「従来のようにデュアルユースとそうでないものを単純に二分することはもはや困難」(2022年7月の日本学術会議の見解)とされる中、国は最先端技術の防衛への転用を狙い、民間や大学への関与を強めている。
■「活用され得る」
 昨年5月に成立した経済安全保障推進法は、政府が選定する特定重要技術の研究開発を資金面で支援するとした。小林鷹之経済安保担当相(当時)は国会審議で、研究成果が「防衛装備品に活用され得る」と認めた。
 23年度からは、世界トップレベルの研究成果が期待される大学に10兆円規模の大学ファンドから資金を重点配分する「国際卓越研究大学」制度が始まる。北大大学院教育学研究院の光本滋准教授(52)は、国立大の運営費交付金が年々削減されていることを念頭に「国や政治家の意向で特定の研究をさせることを可能にするものだ」と懸念する。
 ドローンを活用したスマート農業に携わる道内の研究者は、ロシアによるウクライナ侵攻で、無人機(ドローン)による攻撃が行われたことなどを念頭に「社会のためにと考えた研究成果が軍事転用される可能性はゼロではない」と漏らす。
 超小型衛星を活用した気象観測などに取り組む北大宇宙ミッションセンター長で大学院理学研究院の高橋幸弘教授(57)は数年前、ある省庁から「セキュリティー(安全保障)に絡められるなら(研究)予算が付けられるかもしれない」と誘われたことがあると明かす。その上で言葉に力を込める。「軍事名目の研究で、いったん潤沢な資金を得ると、厳しいコスト感覚を求められる民生研究に引き返せなくなるのではないか」
 北大が、軍民両面で利用可能な「デュアルユース」技術研究に関し、軍事・防衛を所管する公的機関から資金提供を受ける際の事前審査制度を新設したことを受け、学内には軍事研究を認めることにつながるとして反発や戸惑いが広がった。一方で、安全保障技術研究の推進などを期待する声も上がる。政府は、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有という安保政策の大転換に踏み出し、最先端の科学技術を防衛に転用する姿勢を強めている。
■姿勢強める政府
 「審査をクリアさえすれば軍事研究を認めるということではないか」。北大大学院工学研究院の山形定(さだむ)助教(61)は昨年11月、北大・研究公正推進室から届いたメールで、審査制度新設を知り、強い懸念を抱いた。当時、岸田文雄政権は、敵基地攻撃能力の保有を推し進めていた。戦後、学術界が貫いてきた「軍民分離」がないがしろにされる恐れがあると感じた。
 日本学術会議は2017年3月、北大が防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」で助成を受けていたことを批判する声明を発表。各大学などに対して「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、適切性を審査する制度」を設けるよう求めた。北大は、審査制度新設について、この声明も踏まえた措置とする。
 ただ、同様に声明に基づき18年に審査制度を設けた名古屋大は、北大とは異なり「軍事的利用を目的とする研究は行わない」「国内外の軍事・防衛を所管する公的機関から資金の提供を受けて行う研究は行わない」と規定している。
 一方、道産の小型ロケット「CAMUI(カムイ)」の開発に関わった永田晴紀・北大大学院工学研究院教授(57)は審査体制が設けられたことを歓迎する。軍事力の備えと行使は異なるとの主張から「わが国も(国際社会における)地域の安定に責任を有する国家なら、安全保障技術研究もしっかりやるべきだ」と話す。
 永田教授は17年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とロケットエンジン関連の共同研究を計画。防衛省の「安保技術研究推進制度」で20億円規模の助成を受けようと考えた。だが、大学当局から、学内に学術会議の声明が求める「審査体制がない」と指摘され、応募を諦めざるを得なかったと振り返る。
 科学技術の進歩により、「従来のようにデュアルユースとそうでないものを単純に二分することはもはや困難」(2022年7月の日本学術会議の見解)とされる中、国は最先端技術の防衛への転用を狙い、民間や大学への関与を強めている。
■「活用され得る」
 昨年5月に成立した経済安全保障推進法は、政府が選定する特定重要技術の研究開発を資金面で支援するとした。小林鷹之経済安保担当相(当時)は国会審議で、研究成果が「防衛装備品に活用され得る」と認めた。
 23年度からは、世界トップレベルの研究成果が期待される大学に10兆円規模の大学ファンドから資金を重点配分する「国際卓越研究大学」制度が始まる。北大大学院教育学研究院の光本滋准教授(52)は、国立大の運営費交付金が年々削減されていることを念頭に「国や政治家の意向で特定の研究をさせることを可能にするものだ」と懸念する。
 ドローンを活用したスマート農業に携わる道内の研究者は、ロシアによるウクライナ侵攻で、無人機(ドローン)による攻撃が行われたことなどを念頭に「社会のためにと考えた研究成果が軍事転用される可能性はゼロではない」と漏らす。
 超小型衛星を活用した気象観測などに取り組む北大宇宙ミッションセンター長で大学院理学研究院の高橋幸弘教授(57)は数年前、ある省庁から「セキュリティー(安全保障)に絡められるなら(研究)予算が付けられるかもしれない」と誘われたことがあると明かす。その上で言葉に力を込める。「軍事名目の研究で、いったん潤沢な資金を得ると、厳しいコスト感覚を求められる民生研究に引き返せなくなるのではないか」
 北大が、軍民両面で利用可能な「デュアルユース」技術研究に関し、軍事・防衛を所管する公的機関から資金提供を受ける際の事前審査制度を新設したことを受け、学内には軍事研究を認めることにつながるとして反発や戸惑いが広がった。一方で、安全保障技術研究の推進などを期待する声も上がる。政府は、敵基地攻撃能力(反撃能力)保有という安保政策の大転換に踏み出し、最先端の科学技術を防衛に転用する姿勢を強めている。
■姿勢強める政府
 「審査をクリアさえすれば軍事研究を認めるということではないか」。北大大学院工学研究院の山形定(さだむ)助教(61)は昨年11月、北大・研究公正推進室から届いたメールで、審査制度新設を知り、強い懸念を抱いた。当時、岸田文雄政権は、敵基地攻撃能力の保有を推し進めていた。戦後、学術界が貫いてきた「軍民分離」がないがしろにされる恐れがあると感じた。
 日本学術会議は2017年3月、北大が防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」で助成を受けていたことを批判する声明を発表。各大学などに対して「軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、適切性を審査する制度」を設けるよう求めた。北大は、審査制度新設について、この声明も踏まえた措置とする。
 ただ、同様に声明に基づき18年に審査制度を設けた名古屋大は、北大とは異なり「軍事的利用を目的とする研究は行わない」「国内外の軍事・防衛を所管する公的機関から資金の提供を受けて行う研究は行わない」と規定している。
 一方、道産の小型ロケット「CAMUI(カムイ)」の開発に関わった永田晴紀・北大大学院工学研究院教授(57)は審査体制が設けられたことを歓迎する。軍事力の備えと行使は異なるとの主張から「わが国も(国際社会における)地域の安定に責任を有する国家なら、安全保障技術研究もしっかりやるべきだ」と話す。
 永田教授は17年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)とロケットエンジン関連の共同研究を計画。防衛省の「安保技術研究推進制度」で20億円規模の助成を受けようと考えた。だが、大学当局から、学内に学術会議の声明が求める「審査体制がない」と指摘され、応募を諦めざるを得なかったと振り返る。
 科学技術の進歩により、「従来のようにデュアルユースとそうでないものを単純に二分することはもはや困難」(2022年7月の日本学術会議の見解)とされる中、国は最先端技術の防衛への転用を狙い、民間や大学への関与を強めている。
■「活用され得る」
 昨年5月に成立した経済安全保障推進法は、政府が選定する特定重要技術の研究開発を資金面で支援するとした。小林鷹之経済安保担当相(当時)は国会審議で、研究成果が「防衛装備品に活用され得る」と認めた。
 23年度からは、世界トップレベルの研究成果が期待される大学に10兆円規模の大学ファンドから資金を重点配分する「国際卓越研究大学」制度が始まる。北大大学院教育学研究院の光本滋准教授(52)は、国立大の運営費交付金が年々削減されていることを念頭に「国や政治家の意向で特定の研究をさせることを可能にするものだ」と懸念する。
 ドローンを活用したスマート農業に携わる道内の研究者は、ロシアによるウクライナ侵攻で、無人機(ドローン)による攻撃が行われたことなどを念頭に「社会のためにと考えた研究成果が軍事転用される可能性はゼロではない」と漏らす。
 超小型衛星を活用した気象観測などに取り組む北大宇宙ミッションセンター長で大学院理学研究院の高橋幸弘教授(57)は数年前、ある省庁から「セキュリティー(安全保障)に絡められるなら(研究)予算が付けられるかもしれない」と誘われたことがあると明かす。その上で言葉に力を込める。「軍事名目の研究で、いったん潤沢な資金を得ると、厳しいコスト感覚を求められる民生研究に引き返せなくなるのではないか」