現代ビジネス、2/14(火)

いま「日本の国公立大学」で起こっている、パワハラ・大量解雇の「異常な実態」

全国の大学では国による統制やトップによる独裁化が進み、弊害としてハラスメントの横行、非常勤教職員の大量解雇などの問題が起きている。背景にある大学政策と、大学崩壊の現状をレポートする。

大学・学生の自由が奪われている現状を紹介した前編『日本の最高学府の「大崩壊」が始まった…京大ほか国公立大で起きている「ヤバすぎる事態」』に引き続き、まずは文科省OBの結城章夫氏が学長を務めている山形大学で、立て続けに起こったトラブルの内情を紹介しよう。

雇用破壊の「最前線」

’16年に設置したリチウムイオン電池の研究開発拠点「山形大学xEV飯豊研究センター」では、センター長による複数の職員に対するパワハラが明らかになった。しかしセンター長への処分は減給約1万円と軽かった。

米沢市に’11年に開所した工学部有機エレクトロニクス研究センターでも、教授によるパワハラが発覚した。国が求めるベンチャー企業の立ち上げに山形大学も参加し、実績を出そうとしていたが、実態はずさんなものだった。同センターの関係者が証言する。

「教授は着任したスタッフにいきなりベンチャーを立ち上げろと指示します。けれども、資金を出すわけではありません。スタッフに個人的に多額の借金をさせた上でベンチャーを立ち上げるように強要するのです」

ある研究員はパワハラ被害に遭いながらベンチャーを設立したにもかかわらず、次年度の雇用を断られたという。

’20年6月には、センター3階の研究室で火災が起きた。山形県警は翌’21年3月に、火災の数日後に自死していた男性スタッフA氏を現住建造物等放火未遂の疑いで容疑者死亡のまま山形地検に書類送検した。本件で大学は公式な説明をしていないが、前出の関係者はパワハラの疑いを指摘する。

「自殺したAさんは多くの仕事を背負わされていた。火災が起きる半年ほど前から苦しんでいる姿を見ていました」

多くのスタッフがパワハラを受けていた実態を、被害者と山形大学職員組合が調査した。一方で、教授らによる国立研究開発法人などから獲得した研究費約3000万円の不正使用が明らかになった。不正への加担を拒否したスタッフもパワハラを受けていた。

山形大学は’22年3月にようやく不正使用を認めた。しかし、パワハラに関しては否定している。

調査に当たった教職員は「山形大学の執行部にはコンプライアンスの意識が欠如している」と憤る。これが天下り学長をいち早く受け入れ、予算の獲得に奔走した大学の実態なのだ。

多発する雇用止め

大学では、雇用破壊も深刻だ。前出の国立大学関係者が打ち明ける。

「’04年以降、運営費交付金が削減された国立大学だけでなく、私立大学も専任教員を減らしており、任期制の教員や非常勤講師の割合が高くなっています。今、その非常勤講師が切り捨てられる事態が進んでいるのです」

’13年に労働契約法が改正され、有期雇用労働者が5年以上勤務した場合に無期雇用転換権を得られるようになった。

ただしすべての有期雇用者が5年で無期雇用転換権を得られるわけではない。特定のプロジェクトなどで雇用されている教員や研究者の場合は、無期雇用に転換できるのは10年後とする任期法や科学技術イノベーション活性化法など特例も存在している。

とはいえ、大学の非常勤教職員はこれらの法律で守られるようになるはずだった。だが、実態は真逆だ。転換権を得る5年や10年を迎える前に彼らは次々と雇い止めされているのだ。

’18年に非常勤職員が大量に雇い止めされたのが東北大学だ。試験を受けて合格すれば限定正職員になれるとしたが、1140人の非常勤職員のうち、3割近くは試験を受けられないか不合格となり大学を去った。1人が大学を提訴しているが、一審、二審で敗訴している。その後、限定正職員の解雇も始まっている。

さらに、今年3月末には特例の10年を迎える教職員160人以上が、雇い止めされる見通しだ。

また、大阪大学は非常勤講師の5年での無期転換を認めず、独自のルールで雇用期間は10年を上限としている。東海大学は、非常勤講師は5年ではなく10年を超えなければ無期雇用が認められないと主張。この主張自体法令違反の可能性が高い上、両大学とも3月末に10年直前の多くの講師を雇い止めする方針で、どちらも講師が訴訟を起こしている。

大学の混乱は、教育を受ける学生にも悪影響を及ぼしているのだ。雇用崩壊やトラブルで教育と研究がままならない大学や、教員不足で学生が希望する授業を受けられなかった大学も存在する。

まともな研究が不可能に

現在、政府による大学支配の総仕上げと疑われる事態が進行している。それが冒頭の国立大学関係者が明かした「国際卓越研究大学」の認定だ。

これは国が「稼げる大学」を支援するシステムで、政府が創設した10兆円ファンドの運用益を、認定した5~7大学に分配する制度だ。運用益は年間3000億円を見込み、昨年12月から募集が始まっている。ただし、大学運営のモニタリングは内閣総理大臣と財務大臣のほか、閣僚と財界関係者らで構成される内閣府総合科学技術・イノベーション会議が行う。

大学の最高意思決定機関も新たに設置され、大学法人のトップは文部科学大臣が任命する。大学が政財界に完全にグリップされることになるのだ。

「トップクラスの大学が軍事研究や経済安全保障に関係した研究などに誘導される危険性が高まっています。軍事や経済安全保障に少しでも関わる研究は、国際的な学術誌などに研究成果を公開することが制限される恐れもある。民主的な研究は行われなくなり、このままだと大学は崩壊してしまいます」(京都大学大学院の駒込武教授)

ここで触れたトラブルはあくまで氷山の一角だ。国策の失敗を認めることもなく、さらに大学という最高学府を機能不全に導く施策が推し進められようとしている。まさに国家の存亡にかかわる危機なのだ。

この愚行を、今すぐ止めなければならない。

「週刊現代」2023年2月11・18日合併号より

週刊現代(講談社)/田中 圭太郎(ジャーナリスト)