北大阪総合法律事務所・事務所ニュース(2022.12.28

学校法人追手門学院「退職強要」研修・面談事件-労災審査請求で2名につき逆転認定裁決!原告3名全員が労災認定へ

1 はじめに
学校法人追手門学院の職員3名について、追手門学院が外部コンサル会社(株式会社ブレインアカデミー)に委託して実施された「退職強要」研修・面談を受けて精神疾患を発病したとして、労災申請をしていましたが、大阪労働者災害補償保険審査官が、2022年12月22日付けで、うち2名につきこれを業務上の災害に該当するとして、いずれも労災認定を否定した労基署の不支給決定を取消す旨の裁決を行いました。近く労災認定がされる見通しです。
また、すでに2022年3月25日に労基署において労災認定を受けていた1名も含め、追手門学院や同理事長、ブレインアカデミーに対し損害賠償請求等の裁判を起こしている原告3名全員が労災認定を受ける見込みとなりました。
同一の研修を受けた職員で3名もの精神疾患で労災認定が出されることになるのは前代未聞といえる事態であり、これを外部コンサル会社に委託して実施した追手門学院の責任は厳しく批判されるべきです。

2 事案の概要
2016年8月22日から26日にかけ、追手門学院は、18名の事務職員に対し、ブレインアカデミーに委託する形で、業務命令で「自律的キャリア形成研修」と称する研修を受講させました。
しかし、その実態は、受講者を退職や退職の上で特定事務職員(給与は約60%弱となる)に変更することに同意させることが目的と評価せざるをえないものであり、5日間毎日8時間行われた研修の内容も、ブレインアカデミーの講師が受講者らに対し、執拗に「2017年3月末での退職」を迫り、全員の前で「あなたのように腐ったミカンを追手門の中においとくわけにはいかない」、「戦力外なんだよ」、「老兵として去ってほしい」、「虫唾が走る」、「明確に負のオーラばっかり」などと業務とは全く関係のない人格非難といえる発言を繰り返すというものでした。
それだけでなく、追手門学院は、その研修後も、退職等に応じず現状維持を希望する研修受講者らに対して、業務命令として拒否できない形式で何度も面談を受けさせ、その中でも人格非難といえる発言をしたり、退職等をしないと明言してもなお執拗に退職等を求めるなどしました。理事長から直接「退職勧告書」を読み上げて手渡された方もいます。
これらの結果、研修を受けた18名の受講者のうち、10名が退職(いったん退職して特定事務職員になった方も含む)、3名(原告ら)は精神疾患を発病して休職に追いこまれ、休職期間満了時にも復職ができず退職扱い(実質は解雇)とされ雇用を失うという状況に追い込まれました。

3 裁判の提起と労災の申請
2020年8月24日、上記の研修受講者のうち、研修や面談後に精神疾患を発病し、休職に追い込まれた(その後休職期間満了により全員退職扱い)職員3名が、学校法人追手門学院、同学院理事長、追手門学院が研修を委託したブレインアカデミー、研修を実施した講師の4社を相手どり、大阪地裁に裁判を提起しました。
裁判では、精神疾患の発病・休職に追い込まれた点の慰謝料や休業損害等の損害賠償請求(原告ら3名合計約3600万円)、休職期間満了退職扱いで雇用を奪われた点について労働者としての地位確認及び退職扱い後の未払賃金請求、退職強要行為の差止め請求等をしています。
また、3名はそれぞれ労災申請を行いました(2名は茨木労働基準監督署長、1名は大阪中央労働基準監督署長)。労災申請については、先行する2名について、2021年3月13日、精神疾患の発病時期が研修より前とされるという不可解な判断の下で不支給決定がされ、2名は大阪労働者災害補償保険審査官に不服申立(審査請求)をしていました。一方、後行の1名については、茨木労働基準監督署長より、2022年3月23日付けで、研修及び退職が「退職強要」にあたり心理的負荷が「強」であるとして、労災認定がされました。

4 2名についての逆転認定裁決、3名全員が労災認定へ
2022年12月22日、大阪労働者災害補償保険審査官は、労基署で不支給決定がされた2名について、業務上の災害であると判断して不支給決定処分を取り消しました(本件各裁決)。今後、労基署において労災認定決定がされる見込みとなりました。
本件各裁決は、まず2名の精神疾患の発病時期について、機能障害を重視し、これが顕著となった時期を正確に見極め、研修の後に発病したものと認定しました。その上で、研修では冒頭に追手門学院幹部から講師に全権委任する旨の発言があったこと、講師の発言は受講者に絶望感を抱かせるものであり相当程度強い退職の強要があったといえること、他の受講生を追い詰めるような発言が繰り返し面前でなされることを聞くこと自体は「次は、自分があのような目に合う」という恐怖感を抱くに足りる程度であったと評価できること、参加者が相互に他の参加者の欠点を指摘するなど参加者が相互に助け合える環境ではなく講師との1対1での対応よりも心理的負荷が強いものであった等の事情から、労災認定基準の「退職を強要された」に該当するとし、心理的負荷の程度は「強」であったとして、業務上の災害にあたると判断しました。
このように、発病時期について機能障害を重視したことや、心理的負荷の程度について研修での他の受講生への発言もその場面に出席し「次は自分かもしれない」との認識に至る部分も心理的負荷の程度に強く影響するものと判断した点は、実態に即したものとして高く評価できます。

5 最後に
繰り返し指摘するとおり、同じ研修に参加した3名もの方が精神疾患を発病したとして労災認定を受けるなど前代未聞のことです。教育機関である追手門学院が、対象者を業務命令により別施設に集め、外部講師に委託した上で、5日間計40時間にもわたって人格的非難と評価できる発言を用いて退職を迫る「研修」を行ったこと、その後理事長まで出席し、組織的と評価できる面談において執拗に退職を迫ったこと、一連の行為により受講者の多数が退職や精神疾患の発病・休職に至るなど、極めて問題のある事案です。
裁判にも提出している(提出されている)内部資料では、研修前には本件担当講師の研修の特徴が「圧迫的な手法」であることを前提とする追手門学院執行部のメールや、研修の報酬が「対象者の職務上における評価、行動等において変化が認められた場合」に対象者1名につき100万円(税別)とされ、実際に研修後にブレインアカデミーが学院に対し7名分として700万円(税別)を請求し(研修直後に退職・退職して特定事務職員への職種変更を希望した者が7名であったので数が一致)、追手門学院から支払われていることを示す資料も存在します。
原告3名は、その後3年以上も精神疾患を患っており、未だに回復の兆しが見えていません。今もなお当時の恐怖感が拭えず動けなくなることがあるなど、日々の生活に支障をきたしています。追い打ちをかけるように、追手門学院からは休職期間満了で退職扱いとされるなど雇用を打ち切られました。このような状況にある原告ら3名について労災認定がなされる見込みとはなりましたが、裁判ではいまもなお追手門学院やブレインアカデミーは本件研修は退職させる目的ではなく当事者意識を確立するところに目的があり、面談も業務改善目的であった等主張して、争い続けています。
裁判では引き続き追手門学院・ブレインアカデミーらの違法な行為やその責任を明らかにしていくとともに、原告らの受けた苦痛に対する賠償等、さらには追手門学院には職場環境にも配慮した適切な職場になることを求めていきます。
(当事務所の弁護士鎌田幸夫、弁護士谷真介が原告弁護団に参加しています。)

以 上