■東京私大教連
∟●工学院大学不当労働行為救済命令取消訴訟の東京高裁判決に関する声明(2023年2月8日)

工学院大学不当労働行為救済命令取消訴訟の東京高裁判決に関する声明

2023年2月8日、東京高等裁判所(以下「東京高裁」)は、学校法人工学院大学(以下「学園」) が東京都を被告として提訴していた不当労働行為救済命令取消訴訟(令和4年(行コ)第45号)について、東京都労働委員会(以下「都労委」)が出した不当労働行為救済命令の正当性を全面的に認めた東京地方裁判所の判決(2022年1月26日)を維持し、学園の控訴を棄却する判決を下しました。この行政訴訟で争われた学園の不当労働行為(不誠実団交)は以下の内容です。

1.不誠実団交を繰り返し、大幅な不利益変更をともなう教員人事評価制度の導入を強行
2015年7月、法人は突然組合に対して大学ならびに中高教員を対象とした教員人事評価制度を提案してきました。この制度の基本的な骨格は、①教員(中高、大学)を3つの等級に格付けし、最上位の等級以外は早い段階で賃金を頭打ちにする、②3または4段階で各教員の人事評価を行い、最低のC評価の場合は、定期昇給停止、一時金の減額(10%以上)等の懲罰的な処遇を行う、③3年連続C評価を受けた場合は降格候補とする、という大幅な不利益変更をともなうものです。具体的な評価項目や基準は説明されず、評価の公平性・公正性はまったく担保されていません。 制度導入の必要性について、法人は「大学の生き残りのために必要」といった抽象的な説明に終始するだけでした。制度の合理性についても資料にもとづく説明は行われていません。組合が提出した対案にも譲歩する姿勢を示さず、当初提案に固執し続けて不誠実団交を繰り返し、試行期間を設定することさえ行わないまま、2016年8月に制度導入を強行しました。

2.中高で進行した教育破壊
工学院大学附属中学・高等学校では、それまで単一だった給与表が3つの等級に分割されました。最上位の等級3以外は基本給が早期に頭打ちとなり、人によっては生涯賃金で約3000万円の減収になります。しかも、制度導入時の教員に対する格付け(初年度格付け)は、各教員のそれまでの教育実績や学園への貢献を考慮せず、格付け基準も不明瞭なまま校長が一方的に決定しました。その結果、過去に役職を務めた実績ある教員が生涯賃金の大幅な減収を強いられる事態が起きています。 2016年度の人事評価では、評価対象者51名中7名がC評価となり、このなかには団体交渉を行っていた期間に組合役員であった教員が5名含まれていました。評価制度導入当時の校長による恣意的な評価が横行し、評価権を濫用した校長のパワハラ的行為がエスカレートしたことで、中高では民主的で自由闊達な教育活動が破壊され、物言えぬ職場になりました。

学園の不誠実団交に対し、都労委は 2020年4月15日、学園に対して組合との団体交渉にお いて「成績評価の基準を具体的に説明するなどして、誠実に応じなければならない」とするとともに、組合への陳謝文の掲示(ポストノーティス)を命じる不当労働行為救済命令を下しました。学園はこの都労委命令を不服として東京地裁に都労委命令の取り消しを求める行政訴訟を起こしましたが、2022年1月26日に東京地裁は都労委命令を全面的に認容するとともに、都労委命令以上に学園の不誠実性を具体的かつ明確に指摘し、学園の訴えを退けました。今回の東京高裁判決は、この地裁判決を全面的に認容した上、控訴審における学園の新たな主張に対しても、「労使交渉における誠実交渉義務の趣旨を蔑ろにするものである」、「労使交渉における誠実交渉義務の趣旨を理解しない」などとしこれを退け、学園による控訴を棄却したものです。

学園の教員人事評価制度は、他の私立大学・私立学校に類例を見ない異常なものであり、工学院大学と附属中高の教育・研究を大きくゆがめるものです。組合は、2019年10月15日、不当な評価によって賃金の減額を受けた組合員を原告とする未払賃金請求訴訟を東京地方裁判所に提起し、現在地裁での審理が進められています。組合はこの訴訟を、教員・研究者としての尊厳を回復し、働きがいのある学園を取り戻すための裁判と位置付けて取り組みを進めています。学園は都労委命令後も団体交渉に誠実に応じず、組合のあらゆる要求に対して合理的な回答根拠を明確に説明しない不誠実な交渉を繰り返しています。私たちは、学園が今回の高裁判決を真摯に受け止め、最高裁判所に上告することなく、都労委命令を誠実かつ速やかに履行するよう強く求めるものです。

2023年2月8日
東京地区私立大学教職員組合連合(東京私大教連)
工学院大学学園教職員組合連合